来 歴


星の幻想


星よ あなたが泳いでいる
空の深さが私には測れない
星よ 真実のあなたが
どこにいる誰なのか私には言えない
星よ あなたが見せるのは限りない光だけ
その明るさがじゃまになって
黒い背景はおろかなこと
あなた自身の形さへ私にはえがけない
もしかすると あなたは
天が生みおとしたたくさんの赤ん坊
同じ数だけのやさしい手に
あやふくつかまえられている
やわらかなてのひらなのかもしれない
風が吹きぬけるたびに
細い枝の先にしがみついて
無心に笑ってみせたりする小さな顔

もしかすると あなたは
空にふきこぼれた青白い血の色
するどい神様の武器に
ひとつきにつらぬかれた
深い傷あとなのかもしれない
遠い記憶を決して消さないために
空の年をとった部分に
てんてんとはりついているかたいかさぶた

もしかすると あなたは
私の町角をプリントした架空の地図
人間の胸の一角に点在する
きびしい良心のかげを
そのまま写しとった俯瞰図なのかもしれない
紅葉に彩色されたみごとな迷路の中を
自分の未来だけ選んで
どこまでも走って行くつめたい光の列

星よ あなたがひろげた
まぶしいつばさに隠れてしまって
空の大きさが私には見とおせない
星よ あなたが廻る
軌道があまりにも遠すぎて
空の向こうへ私は出られない
星よ あなたは私の影絵
天高く落ちて行って輝こうとする意思

原文のまま 「あやふ(う)く」の 「う」が「ふ」になっています。

魂の領分 目次